なぜヴァイオリンは「歌う楽器」と呼ばれるのか

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なぜヴァイオリンは「歌う楽器」と呼ばれるのか

  • 人の声との共通点
  • ビブラート
  • レガート
  • 息継ぎがない
  • 感情表現
  • 映画音楽で多い理由

ヴァイオリンについて話すとき、よく「歌うように弾く」という言葉が使われます。

楽譜にも、ときどき 「cantabile(カンタービレ)」 という指示が出てきます。イタリア語で「歌うように」という意味です。

では、なぜヴァイオリンは「歌う楽器」と呼ばれるのでしょうか。

ヴァイオリンは、人の声に近い

人間の声は、ピアノのように一音一音がはっきり区切られているわけではありません。

息を吸い、声を出し、音程を少しずつ変化させながら、一つのフレーズをつないでいきます。

ヴァイオリンにも、これとよく似た表現があります。

弓の動かし方によって音をつなぎ、左手で音程を滑らかに変化させ、ビブラートによって音に揺らぎを加える。

さらに、音の始まり方や終わり方、音と音の間のわずかな時間までコントロールすることで、一つの旋律をまるで「歌」のように表現することができます。

そのため、ヴァイオリンでは昔から「歌うように弾く」ことが大切にされてきました。

「歌うように」は、単なる比喩ではない

ヴァイオリンの演奏で大切にされる、

  • レガート
  • フレージング
  • ビブラート
  • 呼吸を感じさせる間
  • 音の強弱

こうしたものは、歌にも共通しています。

実際、クラシック音楽では「歌うように」という考え方が、ヴァイオリンをはじめとする弦楽器の演奏に長く受け継がれてきました。

良い演奏を聴いていると、弓を動かしているというよりも、楽器そのものが呼吸しているように感じることがあります。

それは、ヴァイオリンが単に「音程の正しい音」を並べる楽器ではなく、音と音の間まで含めて、一つの流れとして表現できる楽器だからなのでしょう。

では、歌とヴァイオリンは同じなのでしょうか

もちろん、違います。

歌では、人間の身体そのものが楽器です。

呼吸、声帯、口腔、身体の共鳴。

そして何より、「言葉」を持っています。

「悲しい」「うれしい」「愛している」と言葉で伝えることができます。

ヴァイオリンには言葉がありません。

でも、だからこそ面白いところがあります。

言葉を持たない音楽は、聴く人それぞれの中で意味を持つことができます。

同じ旋律を聴いても、ある人には悲しく、別の人には懐かしく感じられるかもしれません。

言葉で意味を限定しないからこそ、音そのものが感情に触れることがあります。

ヴァイオリンには「息継ぎ」がない

歌との大きな違いの一つが、呼吸です。

人間は歌うとき、必ず息をします。

一つのフレーズをどこまでも続けることはできません。

ところがヴァイオリンは、弓を返すことで音をつなぎながら、非常に長いフレーズを作ることができます。

もちろん弓には長さがあるので、実際には弓を返す必要があります。

しかし、上手に弓を返せば、その動きは聴いている人には「息継ぎ」のように自然に感じられます。

つまりヴァイオリンは、人間の歌のような表現を持ちながら、人間の身体とは違う方法で「息の長い歌」を作ることができるのです。

人間の声を超えるところもある

ヴァイオリンには、歌にはない特徴もあります。

たとえば音域。

人間の声にはそれぞれ得意な音域がありますが、ヴァイオリンは非常に広い音域を持っています。

そして、声帯の状態や体調に左右されることなく、同じ楽器を使って同じ音域を追求することができます。

さらに、楽器そのものを通して音を作るため、人間の身体だけでは作ることのできない音色や響きを生み出すこともできます。

ヴァイオリンは歌を真似しているだけではありません。

歌の表現を受け継ぎながら、それを楽器だからこそできる形へと広げているのです。

「歌の代わり」ではなく、「歌の拡張」

考えてみれば、人間にとって歌はとても原始的な音楽です。

声があれば、特別な道具がなくても音楽を作ることができます。

それでも人間は、そこからさまざまな楽器を作りました。

その中でヴァイオリンのような弦楽器は、人の声が持つ「歌う力」を楽器の中に受け継いできたのではないでしょうか。

声のように音程を滑らかに変えられる。

声のように音色を変化させられる。

声のように一つの旋律を歌わせることができる。

その一方で、声にはできない長い音、広い音域、複雑なアンサンブルを可能にする。

だからヴァイオリンは、「歌の代用品」ではないのだと思います。

人間の歌を、身体の外へと広げた楽器。

そんなふうに考えることもできるのではないでしょうか。

ヴァイオリンを弾くということ

ヴァイオリンを弾くとき、私たちは単に楽譜に書かれた音符を鳴らしているわけではありません。

どこで息をするように弓を返すのか。

どの音を大切にするのか。

どこで少し待つのか。

どこまで音を膨らませるのか。

そうした一つひとつを考えながら、音楽を「歌わせて」いきます。

だからヴァイオリンを弾くことは、ある意味では「歌うこと」ととてもよく似ています。

ただ、自分の声ではなく、楽器を通して歌う。

ヴァイオリンを弾くということは、人間の中にある「歌う力」を身体の外へ広げることなのかもしれません。

何百年もの間、人々がこの楽器を愛し続けてきた理由の一つも、そこにあるのではないでしょうか。